「養子あっせん団体に事業停止命令 優先紹介へ現金要求」(朝日新聞)というニュースが話題になっています。
千葉県にある特別養子縁組の民間斡旋団体「赤ちゃんの未来を救う会」が不当行為をしたとして自治体が業務停止命令を出しました。
報道では、
神奈川県の女性(23)の同意を得て東京都の50代男性とその妻に養子縁組をあっせんした。だが女性は、最終的な意思確認がないまま出産直後の6月21日に産院から男児を連れ去られたとして、縁組の同意を撤回。連絡を受けた警察が夫婦宅で男児を見つけ、7月2日に女性の元に帰された。その間、同会は適切な対応をしなかった。男児にけがはなかった。
養親希望の夫婦に「今、100万円を払えば優先的に斡旋する」と金銭を要求。その後も125万円を要求し、計225万円を受け取った。
ななななんか、パッと他のニュースと一緒に読み流した一般の人は、”この養親希望者が不妊に悩み、思い余って同意をまだ得られてないにも関わらず産院に忍び込み、勝手に赤ちゃんを連れ去った”という印象を持つのではないかと思いました。
不妊で追い詰められた夫婦が起こした悲劇・・・みたいな。
実際、ツイッターやらコメント欄には「誘拐にならないの?!」という文字が・・・
でもね、日本こども縁組協会が独自のヒアリングをしたそうで、
養親もしくは事業者が「連れ去った」という事実はない。養親は助産院に赤ちゃんと数日入院し、研修を受けています。また、実母も当初は養子縁組には同意していました。
ということらしいです。
なんだか、話が違っていますよね。
ではなぜこんなことが起こってしまったのでしょうか。
熊本の慈恵病院「こうのとりゆりかご」は妊娠期から相談にのり、養子縁組斡旋をしています。院長や田尻さんの話を何度か聞いて、命をつなげる素晴らしい仕事だと思いました。赤ちゃんを救い、予期せぬ妊娠をした女性に寄り添い、育てたい養親希望者と新しいスタートがしやすいように環境を整える。
本当に3者がみな幸せになっているのを感じました。
いち民間病院が24時間体制で妊娠SOS無料相談を受け付けています。国からの補助はわずかです。
予期せぬ妊娠をした人は切羽詰まって時間もありません。頭の中がぐちゃぐちゃになって、ひとりで考えても答えなんて出ない、悪いことばかり考えて、時は過ぎ、お腹は大きくなり、仕事もできず、状況は悪化するばかり。冷静になんてなれません。
その状態で赤ちゃんをどうするのか決めるのは大変ですね。
この民間団体のフォローがどのようなものなのかわかりませんが、命をつなぐ仕事ならば、産みの親、養親希望者、養子(成長過程で)のすべての人に心理的ケアが必要でそれが最も大切だと斡旋団体は理解していたのでしょうか。説明不足によって、みんなが傷ついた。養親希望者もまた被害者。
今回は、生みの”親の親”が最終的に対応したようですが、産みの親と意見が違っていたのかもしれません。産みの親が納得していなかった部分があったら、この制度は成り立ちません。赤ちゃんを引き取った場合と、養子に出した場合の赤ちゃんの幸せを生みの親を中心に考えなければいけません、もちろん斡旋団体のソーシャルワーカーが入っていろんな方法を一緒に考えます。
今、養親希望者はどんな思いなんだろうか。100万円払えば優先的に斡旋すると急き立てられ、赤ちゃんが産まれますよと連絡を受け、乳児用品を一気に揃え、産院で研修を受け、オムツ変えとかお風呂の入れ方とか習ったのでしょう。新しい子との生活が始まると思っていたところに、「勝手に連れ去られた」と警察が来た。今回に限らず、家庭裁判所の審判が下るまで産みの親の気が変わったら赤ちゃんは返さなくてはいけません。0%ではないとはいえ、目の前に赤ちゃんを抱いてしまってから、返さなくてはいけないのは、つらいです。
結果、養子に出さず、産みの親が育てることになったのですから、母子には幸せになってほしいですね。そして、養親希望者には赤ちゃんとの時間は消えてしまったけれど、せめて支払った金額を返金してほしいです。
1975年生まれ。不妊ピア・カウンセラー。「コウノトリこころの相談室」を主宰。28歳に結婚後、妊活をスタート。人工授精、体外受精、10年以上の不妊治療では二度の流産、死産を経験。子宮腺筋症で子宮全摘。44歳で生後5日の養子を迎える。数々のメディアや、大学で講演活動を行うなど、実体験を語っている。これまでの体験を綴ったエッセー、夫婦共著「産めないけれど育てたい。不妊からの特別養子縁組へ」2020年9月出版(KADOKAWA)