第三者から精子提供減少 新規の不妊治療受け入れ停止のニュースがありました。
そう、精子提供者は匿名。生まれる子は遺伝的な父がわかりません。
AID(精子提供)については私は思うことがあります。それは7年前の小さな講演会に遡ります。それまで、AIDは不妊治療のひとつで必要な方が施術を受けるものとしか思ってませんでした。その先のことは想像していなかった。
しかしその小さな講演会の登壇者はとても苦しんでいたんです。
AIDによって生まれた当事者でした。30歳くらいの女性。
その医療によって生まれた子がこんなにも苦しんでいる姿は今も私のAIDの考えの根っこにあります。
黙っていれば父娘に血のつながりがないことはバレない、両親は黙っていたが、大人になって急に父が実父ではないと知る。
アイデンティティが崩れた。実父を想像すると人の顔ではなく誰かの精子の形に思える。自分の半分が精子。不妊治療大嫌い、自分は子供を産みたくない。ルーツのわからない人間を増やすだけ。
当事者の発言は衝撃的で終始怒りでした。当事者団体は病院側に出自を知る権利を訴えているけれど、実名にすると提供者が減るという理由で両者対立のようです。
子の意見はおきざりにAIDによって年間100名以上の赤ちゃんが誕生しています。患者数は2010年で600名ほど。
どうして実名を開示できないのか、カルテはあるのに・・・自分の父を知りたい気持ちって自然なことだと思いますが、そんな純粋な子供の願いすら届かない。精子提供者は医学生バイトが多く、うん10年経過して権威ある医師になってる可能性もある、幸せな家庭を築き暮らしているところに「あなたがお父さん!」と現れると不都合なことが多いようです。
現代ではDNA遺伝子検査は手軽に行えるようになりました。「言わなければバレない」時代は終わったと私は思います。その後もAID関連のシンポジウムに何度か参加しましたが、知れば知るほど子は悩むだろうな・・・というものでした。それはやっぱり「告知しない」が圧倒的に多いからです。
2010年〜2011年の調査(慶応義塾大学)提供精子を用いた人工授精(AID)における告知と出自を知る権利
告知しない 52%
その理由は、
「医師から告知しないほうがいいと言われた」
「他院でAIDをしてきたが何も言われなかった」
「相談相手がいなかった」
医師の言葉は患者さんにとって影響力大きいですから、相談相手もいなく医師から言われた・・・そうか、「告知しない」になってしまうのも無理ないのかな。
でも、歪みのある医療は衰退していくんですよね。ニュースにあるように精子提供者が減り続けると継続は難しいそうです。生まれた子供が苦しむなんて、誰が想像したでしょうか。小さな講演会の30代の登壇者の両親もただただ子供が欲しく、育てたく、でも夫に精子がなくて病院にAIDを提案されたんです。家族が幸せになるために。
なのにこの件で、絶縁。
現代、精子欠乏症は顕微授精が進みました。無精子症は精巣切除のTESEがあります。
どうしてもAIDしかないなら、実名制にするなど考え直す時が来てますよね。
ニュース記事の中ではネットで精子提供しているケース、いわゆる闇取引をあげ、危険だと指摘。そりゃそうだ・・・。なので安全な病院でAIDを続けたいという病院側の意見が書いてありますが、独身で男はいらない子だけ欲しいというネット利用者と、夫婦で子を授かる事ができない不妊の悩みは同じトーンで話すのは違和感しか残りません。
もうひとつ、ここからは私が参加したAID説明会の資料からぜひ知ってほしいものを記載します。あまり表に出る事のない精子提供を受けて子供を産んだ妻の気持ちです。(AIDを選択するカップルの意識:すまいる親の会)
(不妊告知から治療決定まで)
混乱・困惑
夫婦のコミュニケーション不全
(治療開始から妊娠期)
他者の精子が自分の体に入る違和感
夫の誠意が見られず一人で治療、一人で妊娠、一人で産む
心の準備がないまま妊娠してしまった。後戻りできない
(出産期)
AIDを選択して良かった
子供が誰にも似ていない、夫の反応が気になる
義母は孫の顔を見に来なかった
(子育て期)
AIDに関連した話やテレビは避ける
自分自身つらい
話せる人、専門家がいない、心療内科も取り合ってくれない
匿名、実名についてはまだ決着はつかなそうですが、子供の未来を考えて相談しながら夫婦に寄り添うことはいますぐできることですよね。
無精子症の不妊カップルは誰にも相談できず、決断しなければいけない現実がここにありました。「夫の精子がない」とは近い友達には言いづらい、かといって夫婦間でも話し合いが十分されていない。その理由は、夫は自分のせいという引け目があり、妻はそれに触れてはいけないという気遣いがあるためかと思います。ただそのまま進んで妊娠すると、アンケートにあったように「後戻りできない」状態です。もしも今AIDを検討中の方がこのブログを読んでいるならば、上の経験者の意見を参考に二人の気持ちを伝え合うことから進めてほしいと思います。告知についても、どんなことがあるか一緒に想像していく時間を作ってください。当事者団体は勉強会も行っています。
卵子提供、精子提供、代理出産などの第三者の関わる不妊治療についてもカウンセリング相談をしています。特にカップルカウンセリングで話せる場所として利用していただければと思います。
1975年生まれ。不妊ピア・カウンセラー。「コウノトリこころの相談室」を主宰。28歳に結婚後、妊活をスタート。人工授精、体外受精、10年以上の不妊治療では二度の流産、死産を経験。子宮腺筋症で子宮全摘。44歳で生後5日の養子を迎える。数々のメディアや、大学で講演活動を行うなど、実体験を語っている。これまでの体験を綴ったエッセー、夫婦共著「産めないけれど育てたい。不妊からの特別養子縁組へ」2020年9月出版(KADOKAWA)