「新型テストにどう取り組むのか?」従来の羊水検査・絨毛検査との比較、時代の流れについてのマークエバンス大学教授からのスピーチ。続いて「ヨーロッパにおける出生前診断の現状と未来」ハワードカックル大学教授。難しい難しい、難しいです。全部英語でした。同時通訳いましたけれど、、、
そして、私がこの日一番注目していたのは、クリフム夫律子マタニティクリニックの夫律子院長からのお話。
胎児診断をしている大阪の病院の院長。高齢出産をする女性の間では超有名で、全国から妊婦さんが集まっています。一度は名前聞いたことがる人は多いでしょう。
妊娠中、不安になるのはもちろん赤ちゃんのことですよね。2011年かな、テレビでこちらの病院のドキュメンタリー番組してました。胎児の異常を告げられる家族、22週の決断の日まであまり余裕はない。母親は自分を責めて泣いてる。家族、周囲も意見を言い、妊婦の決断は迷います。何度もカウンセリングをしている様子が映されていて、夫と無言で集中して観ていたのを覚えてます。
今回のお話は、新型出生前診断と胎児診断の違いを理解しなければいけません。
新型出生前診断はニュースでも話題になりましたね。血液検査により「お腹の子がダウン症かわかる!」と偏った情報が先走りしてましたが、正確には、ダウン症(21トリソミー)、18トリソミー、13トリソミーの3種類の先天性異常の有無を評価。費用は約21万円、35歳以上の妊婦が検査を受けれるものです。
一方で胎児診断は特殊なエコーにより胎児そのものを診察、首のむくみ、心臓、鼻の高さ、細部に渡るまで診察し、胎児の異常の有無を評価します。
このふたつを癌で例えてくれました、とてもわかりやすいですね。
夫院長は、新型出生前診断、超音波検査、血腫マーカー検査をスクリーニング検査とし、絨毛検査、羊水検査を診断(確定)検査と分けて考えています。
新型出生前診断はダウン症の有無がわかると取り上げられているけれど、ダウン症という言葉しか知らないのでそう言っているだけで、お母さんが心配しているのはダウン症のことだけではない。
「大切な赤ちゃんに「病気」がないか心配している」
なぜ出生前診断を受けるのか・・・・・それは、
「不安を解消して安心を得るため」
新型出生前診断は、今までの羊水検査などに変わるものだという認識が強いですが、実際には胎児の先天性疾患の25%の部分の検査です。その他の疾患はわからないというジレンマ。
クリフムマタニティクリニックでは遺伝学的スクリーニングと形態学的診断を同時にしているため、スクリーニングではなく診断検査ができる。診断結果がすぐにわかることも患者さんの負担を軽くしているとのこと。
そして、胎児診断は「胎児」を診ましょう、胎児の画像も見ないで血液検査だけで命を選別するのはどうでしょう、と疑問を投げかけてました。その通りだと思います。
発表された集計データによると 1年間に7740人が新型出生前診断を利用し、「陽性」と判定された142人の妊婦のうち、羊水検査などで異常が確定したのは113人だったと発表した。このうち97%にあたる110人が人工妊娠中絶をしていた。(日本経済新聞より)
夫院長から異常のあった例をいくつか紹介。
22週未満の選択
16週 脳内出血・脳組織の欠落→妊娠中絶を選択、後悔の念でその後4年間精神的に鬱状態。
21週 脳発育やや遅延・下顎狭小→妊娠継続、分娩。重度の障害あり、継続したことを後悔。
19週 脳障害の危険性→無事に分娩、正常に発育。元気な写真が紹介される。
19週 胎児脳室拡大→妊娠継続、子宮内で成長し脳室拡大が消える、元気に出生。
18週 第一子が小頭症・重症の脳障害、第二子を妊娠、再び脳障害→出生後、重症脳障害の二人の子育て、でも幸せです(22歳ママ)
22週以降(妊娠は継続しなければいけない)
25週 子宮内脳障害→元気に障害なく育っている。
28週 胎児に脳障害→受容できないまま分娩。
どんな結果になるかは「紙一重」・・・と夫院長。
これからも晩婚化に伴い、妊婦の高齢化は進み、スクリーニングをする患者さんはどんどん増えていくと思う。システマチックに検査結果を出され、決断に迫られる家族はどんなに孤独だろう。検査結果、診断を伝える時、寄り添う姿勢が必要とされるはず。その時、医療従事者、不妊カウンセラーには胎児診断についての知識が必要とされ、赤ちゃんをひとりの人間として尊重し寄り添うスキルが求められると思う。特に不妊を経験している不妊ピアカウンセラーであれば、芽生えた命に対してその姿勢でありたい。
夫院長は出生前診断についてこのように述べていた。「出生前診断とは、診断することがゴールではなく、診断した時点から胎児異常が判明した両親に寄り添っていくこと」
そして最後に、「お母さんが赤ちゃんにまっすぐ向き合う、私たち(医療者)はお母さんに向き合う」と教えてくれました。
「お母さんの思いを傾聴し、決断を尊重する」ここでも寄り添うという基本的姿勢が大切に。
重症な疾患のある赤ちゃんの画像をたくさん見て、せつなく、帰り道の足取りは非常に重たかった。しかし、カウンセラーとして学び多いシンポジウムでした。
今すぐにできることは、疾患を抱えている赤ちゃんを育てる家族を暖かく見守ること。。
1975年生まれ。不妊ピア・カウンセラー。「コウノトリこころの相談室」を主宰。28歳に結婚後、妊活をスタート。人工授精、体外受精、10年以上の不妊治療では二度の流産、死産を経験。子宮腺筋症で子宮全摘。44歳で生後5日の養子を迎える。数々のメディアや、大学で講演活動を行うなど、実体験を語っている。これまでの体験を綴ったエッセー、夫婦共著「産めないけれど育てたい。不妊からの特別養子縁組へ」2020年9月出版(KADOKAWA)