先日2月24日のニュースで、全国労働組合総連合(全労連)の女性部が働く女性の流産経験の調査結果を発表しました。(yahooニュース)調査結果によると、「過去に流産を経験したことがある」と答えた人の割合は23.2%。約4人に1人が流産を経験していました。流産後には、『なかった子どもだと思えば気も落とさなくてすむ』と言われた人も。
目の前の女性にもその可能性はある
この調査結果では流産を経験している女性の割合は高い水準と書かれています。5年毎にしている調査で、前回も高い水準でした。今わかったことではなく、以前からだいたい女性の4人に1人は悲しい経験をしているのです。
その割には・・・
「子供はまだなの?」「子供はいいわよ」という言葉の投げかけは、いまだ気軽にされていると思いませんか。結婚した=妊娠するというこの社会の考え方どうにかならないのかな。。そんな簡単なものではない人たちもいるということ。普通に妊娠する人が多すぎて、マイノリティは見えにくいですね。
問題は、このような妊娠出産は当たり前ではない、流産は高い水準であるというデータがいくら広まっても、”目の前の女性が流産を経験しているかもしれない”と想像できる人は少ないということです。
だから「子供は?」発言がいつまでもされる。
不妊も同様です。
「不妊治療って本当に大変なのよね〜、でも、あなたは違うんでしょ!?」
と聞かれたことがありますが、そんなテンションで聞かれても答えられませんからっ。「不妊治療はお金がかかって大変」まではメディアの効果もあり理解してくれている、ありがとう。でもその次です。その人たちがそれを公に、気軽に、ランチの合間に、誰にでも言えるような話題ではないのです。
その夫婦に何があったか、子供を失ったことは誰にでも話せることではありません。「子供は?」と聞いた時、「ああ」とか「まあね」とはっきり答えない返答がきたら、あなたには教えない事情があると察して欲しいです。
蛇のようにしつこく聞いてくる親戚に、やむなく「流産した経験がある」と打ち明けたことがあります。告白すること自体、とても嫌でした。でももう親戚の「子供まだ攻撃」を止めるにはそれしかないと思い言いました。しかし、「あっそう」とたった一言、言われただけでした。誰もが流死産で赤ちゃんを失った苦しみを理解してくれるとは限りません。私はその時に悟りました。
このデータが広まることは良いことですが、決して
「流産を経験した女性が多い」=「流産はよくあることだから辛くない」ではありません。
特に初期流産は、周囲に妊娠を知っている人も少なく、悲しみを自分から告げることなく生活は毎日始まり、喪失感と向き合う間もなく、過ごしてしまう傾向があります。
自分の中で悲しみを押し殺して(気づかぬうちに)過ごしていても、忘れることってできませんよね。急に涙があふれてきたり、朝起き上がれなくなったり、体の不調に出てきます。
そうなる前に・・・
まず、初期といっても、女性にとっては短い時間ではありません。このことを周囲もご主人も共通の認識として持ってもらいたいです。
それはさかのぼると、排卵日(移植含む)から検査で陽性反応が出るまでの約2週間、ドキドキしてハラハラして、トイレに行く度に緊張し、基礎体温のちょっとした変化にも「今回ダメかも・・・」と不安になり、緊張感はピークです。飲み会などはもちろん行きません。隣の席のタバコの煙も気になり、階段だってゆっくり手すりを使います。自転車は振動がダメという情報を見たので、乗りません。満員電車では何よりもお腹を守り、ホームでは駆け込み乗車で走ってくる人を避け、人のいないところを歩きます。それが2週間続きます。
妊娠4週ーーーそしてやっと待ちに待った判定日!!!陽性!!!!念願の「妊婦」と認定してもらいます。
その日からは赤ちゃんの成長のみが幸せ。すべてのパワーを赤ちゃんの成長に注ぎ込むように24時間赤ちゃんの無事を祈っています。スーパーですれ違うベビーカーの母子を見て、出産後の想像をしたりします。いつもの公園が、ここに来るんだなぁと思う公園に変わります。
妊娠5週ーーー次の週、6ミリという小さい胎嚢が見えただけで、大喜び。胎嚢のサイズが平均なのか、平均より小さいのか不安で調べ、次の診察まではもっともっと慎重に過ごします。1日1日がとてつもなく長く感じ、不安と喜びの入り混じった日々を過ごします。
妊娠6週ーーー胎嚢の中に赤ちゃんが見えました。ホッとする瞬間です。涙も出ます。
小さい小さい我が子、愛情を向ける対象がやっと目に見えます。今まで、目に見えない、存在しない赤ちゃんのことをどれだけ考えてきたか。今はこのお腹にいます。
妊娠7週ーーー心拍が確認できれば最初の難関突破という目標にしている人は多いですよね。
例えばここで心拍が確認されなく、流産を医師から告げられた場合、「たった1ヶ月お腹にいただけ」周囲は”初期”だったと思うかもしれません。でも、不妊治療をしていたらその命を意識したのはずっとずっと過去から遡ることになります。人によっては3年、5年という月日かもしれません。世界の色が変わるくらい嬉しく、何気なくお腹をなでて過ごした日、ひとりでいるのにふたりでいる感覚。守るものがあった日はかけがえの無い日です。
ここまで、一般的なことを書きましたが、女性がどんな風に過ごしているか想像する参考になれば幸いです。
赤ちゃんがこの世にいたことを知っている人
相談室には、流産後に夫婦の温度差を感じたいう女性が多く訪れます。
悲しい、寂しい、語りたいけれど夫はこの出来事をもう過ぎたことのように日々過ごしている、と。(奥様にはそう見える)
妊娠前と妊娠後、身体に変化のない生活をしている男性には、この女性の数週間を想像するのは難しいかもしれません。もしも男性に命が宿るチャンスがあるなら、宿って欲しい。そうすると、共感しやすいのに。
私が講演で「妊娠前から赤ちゃんへの思い、長いストーリーがある」というを話ししたら、女性の気持ちを知ることができて参考になったと言ってくれた男性参加者さんがいました。きっと細かい生活の変化を女性もわざわざ話さないだけで、男性だって想像はきっとできます。
想像ができたら、次は、これだけ積み重ねた思いが流産宣告された瞬間に消えてしまうことを考えてください。将来の赤ちゃんとの3人の生活も想像していました。この喪失感を女性が1人で解決するのは、とても難しく、支えが必要です。
始めに書きましたが、特に初期流産は周囲に妊娠を告げていないケースが多いのです、世界で赤ちゃんのことを知っているにはご主人だけかもしれません。そして、もし周囲に告げていても「よくあることだよ」などと言われているかもしれません。そんなママを支えることができるのは、誰よりもご主人、赤ちゃんのパパです。悲しみを共有できるのもパパだけです。パパも悲しいのですから。
女性のそこまでの深い気持ちを少しでも男性にも想像してもらい、一緒に分かち合って欲しいです。
日時 4月20日(水曜)13:30~15:30
場所 港区立白金台いきいきプラザ
参加費 3000円
対象 流死産、新生児死亡を経験した女性(不妊治療の有無は関係ありません)
主催 コウノトリこころの相談室
赤ちゃんを語れる場所って、日常生活ではなかなかありませんよね。ここでお話ししたことはこの場だけというお約束のもと、赤ちゃんを亡くした方同士であたたかいルイボスティを飲みながら話しませんか?
*コウノトリの会は毎月、流死産のテーマは3ヶ月に1回開催しています。
ファシリテーターは流死産を経験した不妊カウンセラーです。
詳しくはコウノトリこころの相談室HPまで
1975年生まれ。不妊ピア・カウンセラー。「コウノトリこころの相談室」を主宰。28歳に結婚後、妊活をスタート。人工授精、体外受精、10年以上の不妊治療では二度の流産、死産を経験。子宮腺筋症で子宮全摘。44歳で生後5日の養子を迎える。数々のメディアや、大学で講演活動を行うなど、実体験を語っている。これまでの体験を綴ったエッセー、夫婦共著「産めないけれど育てたい。不妊からの特別養子縁組へ」2020年9月出版(KADOKAWA)