2月13日に放送されたNHK総合「ニュース深読み 子どもは欲しいけれど…不妊治療 理想と現実」が話題になっています。「捨て石」という発言、言いたいことはわかるけれど共感できない部分もあるので書いてみます。
まず、番組中で、
司会の小野文惠アナウンサー(今年48歳)は「40代の不妊治療をもっと手厚くしないと少子化は止まらない」と涙をこらえながら力説。番組ディレクターの「私たちは、捨て石だと思うんですよ。いい捨て石になりましょうよ。」という言葉も紹介した。
小野アナ、いろいろとご苦労な経験をされてきたのかもしれません。先日も、中学校校長が全校集会で「女性にとって最も大切なことは、子どもを2人以上産むこと。仕事でキャリアを積むこと以上に価値がある」と発言したとニュースがありました。子供を持たない女性を全否定した発言でしたね。「産めない女は・・・」「社会の貢献してない」などと言われあちこちでプレッシャーを感じていたのかもしれません。
でも・・・、でもね、「50歳まで産めばいいのかな〜」は、ちょっと知識が足りない、調べればそれが妊娠適齢期を大幅に過ぎていると気づけたはず。いつまでその考えを持っていたのだろう。
まさか最近までではないですよね・・・?
そして、ディレクターの「捨て石」という発言・・・、これはどういう意味で使ったんだろうと考えてました。囲碁の戦略用語なんだけど、”さし当たって無駄のようにも見えるけれど、将来それは無駄ではない行い”だそうで、私なりに解釈すると、「小野アナや番組ディレクターのように、産もうとした時に妊娠適齢期(タイムリミット)を過ぎていたという女性を減らそう!我々はそのために自らの体験を語っていこう!」と私には伝わりました、そういうことだよね?前後の文章でそう思えたのだけど、、、合ってる?
で、私はこの解釈が合っているなら大賛成です。すでに、避妊だけではなく不妊も勉強しましょうという動きがあり、教科書に掲載することになったり、企業の不妊休暇というのも増え、女性の産む時期を逃さないよう多方面で協力をしてくれてます。ありがたい。
で、ここまでは小野アナの意見に賛同しますが、
「40代の不妊治療をもっと手厚くしないと少子化は止まらない」というのは、わからなかった。
高度生殖医療(体外受精・顕微授精)の出生率を見てみましょう(あえて妊娠率ではなく出生率)
30代前半 20%
35歳 18%
40歳 8%
低いですよね。そもそも人間は妊娠率が低い生き物、健康な男女でも自然の妊娠率は20%ほど!ちなみにチンパンジー70%、ネズミ100%!!!
人間の40代、8%ですよ。ジャガー横田さんとか芸能人の高齢出産ニュースが目立ちますが、奇跡ですからね。その後ろにはたくさんの見えない泣いている女性がいるのです。
小野アナの気持ちはわかります、男性と肩を並べてキャリアを積んで頑張ってきた女性に救いの手を差し伸べてほしい。そうですよね。でも、30代と40代の出生率は明らかに違います。
以前、不妊学会でのどなたかの先生の講演で、「昔なら40歳っていったら死んでますからね!死ぬ年齢なんですよ!死ぬ年に妊娠したいと言っているんですよ」とちょっと愛情込めたパンチが飛んできました。私は41歳なので「お前はもう死んでいる」状態です。
現在の日本では、不妊治療している40%が40代。これは大変です。全然妊娠しません!
世界的にみても異常な数字です。これでは少子化は止まりません。もっと早くから妊娠を真剣に考えてもらう必要があります。若者に!
子を求めてない人に「産め〜」というのはおかしい。でも子を望んでいるなら、早くスタートするために正しい知識は持っててほしい。
小野アナごめんね、なので本気で少子化をストップさせたいと思うなら、
「40代の不妊治療をもっと手厚くしないと少子化は止まらない」
ではなく、
「20代、30代の不妊治療をもっと手厚くしないと少子化は止まらない」
です。
不妊治療の技術が高くなっても、助成金をたくさんいただいても生殖医療は完璧ではない、限界があります。受精して着床したら妊娠するというのはわかっていても、どうして受精しないのか、着床しないのかはわかっていません。女体は不思議がいっぱい、神秘なのです。高度生殖医療を持ってしてもわからない部分が多すぎるんです。なので最後は「卵子の質」なのかな、って話になるんです。
40代に冷たくしてと言ってるわけではないのですよ。余力があれば40代にも手を差し伸べて欲しい。私も40代だし。
でも小野アナの冒頭で紹介した「50歳まで産めばいいのかな〜」の言葉がすべてです。
正しい妊娠適齢期を知らせていくことが本当の「捨て石活動」ですよね。
これから結婚する人たち、結婚したけれど子供はまだと考えている人たち、今一度下記を確認してほしい。
国のために少子化をストップしたいわけではなく、きっと皆が子供が欲しいと思った時に「もっと早く知っていれば良かった」と後悔してほしくない、苦労して欲しくないから書きました。
夫婦へ
・子を望むなら早めに不妊検査チェック、絶対夫婦で!
(卵巣年齢と言われるAMH検査は7000円、精液検査は泌尿器科でできます、ネット注文可能な不妊クリニックもあり)
・男性は子作りを先延ばしにしない。女性の出産リミットの認識を共有!
子供が何人欲しいか、夫婦でちゃんと話し合ってますか?
国へ
・妊娠基礎講座を開催する!
妊娠のしくみ、不妊一般検査の内容を看護師さんが説明。(現在は杉並保健所のみ)
・助成金利用を自由形に!
不妊治療を長期化しないため、年に2回ではなく短期集中で若いうちに使える仕組みにしてほしい。
・着床前診断の許可を
染色体検査をして正常な受精卵のみを移植する方法は日本ではまだ認められていません。妊娠中の赤ちゃんの染色体検査をする出生前診断は実施されています。
いまだ女性は子を産んで幸せという型にはめたがる人がいます。
しかし、夫婦の満足度の統計では、結婚した時の満足度は夫婦共に当然高く、子を持った時に特に妻の満足度は下降。また、ハーバード大学の調査、一番幸せな夫婦は世帯年収500〜800万円のコナシ夫婦と結果が出ています。
とっくに「子を産んだだけで幸せになれる」の図は崩れているのです。
しかし、日本では根強く残る、「女は産んでなんぼ」感覚。知らず知らずのうちにあらゆる場面でそのような言葉を私たちは受け取り、
子を産まなければ幸せになれない。
子を産まなければ女ではない。
と思ってしまいます(何回も言われるから)。不幸になりたくない、子を産まなければ・・・と必死に治療をがんばってしまう。子のいない自分を認めたくないから、やめれない。
子を産まない女性でも堂々と生きていい、そんな生き方もある!って世間に証明していくことがこれからは大事。きっと小野アナが生き生きと仕事して素敵な女性でいればいるほどそれは伝わると思う。捨て石なんて言葉使わなくてもね。
1975年生まれ。不妊ピア・カウンセラー。「コウノトリこころの相談室」を主宰。28歳に結婚後、妊活をスタート。人工授精、体外受精、10年以上の不妊治療では二度の流産、死産を経験。子宮腺筋症で子宮全摘。44歳で生後5日の養子を迎える。数々のメディアや、大学で講演活動を行うなど、実体験を語っている。これまでの体験を綴ったエッセー、夫婦共著「産めないけれど育てたい。不妊からの特別養子縁組へ」2020年9月出版(KADOKAWA)