つづき
鍵師の一件でもうひとつ思ったことがあります。
それは、「時間の過ごし方」
鍵師が時間から遅れると連絡があったので、家から一番近いレストランへ移動。19時くらい、どうみても食事タイム。入ったことのないレストラン、キャンドルの灯りでムーディーな雰囲気、ワインなんかが似合う・・・、おそるおそる入る。イケメン店員さんが迎えてくれた。ひとり客なんていない。。
料理はパスタくらい頼むしかないか、と考えていたら、「カフェメニューお持ちしましょうか?」と店員さん。カフェメニュー・・・そこにはミルクティー、ハーブティーなど体を温めてくれそうなドリンクが並んでいた。
「えっ、飲み物だけでも良いんですか?」
「ええ、もちろん」(笑顔)
わーー、ありがたい!しかも笑顔。
「今日は寒いですよね、ゆっくり温まってってください」とさらに笑顔!!!なんというこのホスピタリティの高さ!こんな食事もせず600円の飲み物だけのお客に。
そこから結局は1時間待つことになったのだけど、この1時間はスーパーの1時間とは全く違っていた。かじかんだ手でミルクティのカップを包み、「あ〜あったかい」ホッコリ。雑誌を買ってくればもっと快適に過ごせたな〜と余裕が出るくらい、同じ「待っている時間」とは思えなかった。
鍵師を待ったのは、スーパーもレストランも時間の長さは同じです。鍵師早く来い!という気持ちも共通でした。
何が違ったかというと、自分の置かれた環境ですよね。
・スーパーは寒い、ひとりぼっち、=大げさに言うと過酷な環境
・レストランは暖かい、美味しいミルクティ=素敵な環境
そして一番重要なのは、店員さんの「今日は寒いですよね、ゆっくり温まってってください」という優しい言葉です!
冷たい雨、風に打たれ外から来た明らかに寒そうにしていた私に、手を差し伸べてくれた。「寒いですよね」って察してくれた。そして「カフェメニューあります」って、レストランの食事を楽しもうとしている客ではないな、って気付いてくれました。
私の状況に目を向けてくれたんです。
不妊を経験した当事者に出会い、封じ込めていた気持ちを語れる仲間ができました。それは病院の患者会でもいいし、私がいま活動している当事者カウンセリングやグループのお話会でもいいです。ネットの掲示板でもコメント欄でも。
今のわたしを共感してくれる人がいました、子供のいないわたしを今年流行った「ありのまま」で受け入れてくれた。同情ではなく、共感で。
「しんどいよね、子供いないと劣等感あるよね、こういう時につらいよね」「そうそうそう」ってそれはレストランの店員の「今日寒いですよね」と同じ共感の言葉がきっかけ。
こんな変な気持ちになるのは私が変ではないんだ、子供が欲しいと思って頑張っているなら自然な感情なんだ。。と私はどんどん殻から出て自信を取り戻していきました。
スーパーとレストランで過ごした時間に大きな差を感じたので、ちょっと不妊治療に置き換えてみました。同じ待つ時間でもその環境によってこんなに気分が違うんだ、心地よく過ごせる工夫があるとわかりました。治療している時間も私の人生の一部、人生がストップしているよう、だけれど本当にストップしているわけではありません。大事な私の人生はどんどん進んでいるんです。それも30代という本当は楽しい年代が。このまま終わりたくない!
やりたいことを誠意一杯やって全力を尽くしている、自分は頑張っている、と思って過ごすのも同じ治療時間ですよね。自分を慈しみ、不妊治療に立ち向かっていることを誇りに思ってほしい。
ひとりじゃ、無理。。治療は多大なストレスを多方面から受けます。逃げ道、自分の話せる場所を見つけてほしい、それが先の見えない不確実なものへチャレンジするための大事なポイントになると思うから。
(いろいろなサポート、仲間のいる場所 )
杉並区 妊娠を望む方のお話会
・当事者ピアカウンセラーによるカウンセリング
1975年生まれ。不妊ピア・カウンセラー。「コウノトリこころの相談室」を主宰。28歳に結婚後、妊活をスタート。人工授精、体外受精、10年以上の不妊治療では二度の流産、死産を経験。子宮腺筋症で子宮全摘。44歳で生後5日の養子を迎える。数々のメディアや、大学で講演活動を行うなど、実体験を語っている。これまでの体験を綴ったエッセー、夫婦共著「産めないけれど育てたい。不妊からの特別養子縁組へ」2020年9月出版(KADOKAWA)